第壱冊

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「オーケー、人の顔をまじまじと観察するだけの余裕はあるみたいだな」 「あっ、すみません」 そう言われて青年ははっとした。そんなに凝視するつもりはなかったが、とても失礼に当たるのでは、と慌ててお辞儀し謝罪しようとした。 しかし頭を下げる前に「別に気にしなくてもオーケーオーケー」と言われたためにその下げかけた頭を再び上げた。 「見た所初めてここに来たって感じだな。どっかの旦那のお弟子さんって所かな?」 「はっ、はい。キースさんの下で修業させてもらっているピットって言います」 「オーケー、ピットね。ぜってえ忘れないように覚えとくな。 俺はザリット。よろしく」 ニカッと笑いながらそう言う彼。握手を求められたと思えば、何とそれは左手。一般常識的にそれはあまりよろしくはない。 いぶかしげにザリットと名乗った青年の方をみたピットだったがすぐにその左手の理由が分かった。彼が着ているコートの右袖、二の腕の真ん中あたりから先が風に揺らいでいるのだ。 無いのに右手で握手が出来る筈も無い。 「ああ、言い忘れてた。左手で失礼するってな」 「すいませんっ!!」 「オーケーオーケー、俺はこれっぽっっっちも気にはしてないから謝る必要性は皆無だろ?」 差し出された手をピットはおずおずと手に取った。慣れない左手の握手には少し違和感を感じたものの、友好の印としては成立した。 「よっしゃ、酒飲もう!!」 「僕未青年です~」 「オーケーオーケー。俺なんて十の時から飲んでるって。みんなにも紹介してやるからさ、飲めっ」 「え~」 「おっ、若いの。ザリットはざるだから気をつけろよ」 「えぇ~!!」 今日、この酒場で。 ピットとザリットは出会った。
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