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あれから、一年経った。 翌年の二月二十一日。 被告、鮫島京介は殺人と銃刀法違反の罪で禁固刑八年の判決を受けた。 自身も容疑を全面的に認めたためか、取り立てて裁判が白熱することはなかったそうだ。 判決が下るまでの間、マスコミの騒ぎようは異常なほどだった。テレビも新聞も週刊誌も、ほぼこの話題一色で。 いや、殺人事件があれば普通これくらい騒ぐだろうか。 『殺人鬼の息子は、やはり殺人鬼』 聞きたくもない言葉を幾度となく聞かされた。 堀部さんが週刊誌に圧力をかけてくれなければ、あることないこと根掘り葉掘り書かれていたことだろう。 それよりも前の、事件から一ヶ月後。 京介君を思う。 心が壊れそうになる。また、京介君を思う。そして、辛うじて持ちこたえる。 矛盾した悪循環。 だが、こうしていないと本当に駄目になってしまう。京介君がどうしてあのように私を突き放したのか、痛いほどにわかったから。 体に力が入らず、学校に行く気力すら湧かない。 学校を休んでいたら、心配してユキや椿姫が何度か来てくれたが、毎度、曖昧に返してはやんわりと追い返してしまう。 心情を察してくれたのか最近はメールが時々、来る程度。 どうでもいい。 どうでもよかった。 「京介君……」 いや、浅井さん……。 彼は出所しても、もう私と会わないつもりだ。 私が幸せになって、ヴァイオリンを再び手にとることを誰より望んでいるから。 「でも、ずっと……好きなんだよ……」 部屋の隅で膝を抱えて呟く。涙が零れた。それを拭く気にもなれず、うなだれる。 近くで音がする。携帯電話だ。 液晶には“店長”と映しだされていた。バイトのことだ、流石にでないわけにはいかない。 「はい」 如何にも、取り繕った。と言った感じの明るさになってしまう。鼻声なので逆に相手に変な気を遣わせてしまいそうだ。 「……」 「店長?」 しばらくの無言が続いた後、プーッ、プーッと切れてしまう。店長にかけ直してみたが繋がらない。少々、不信に思ったが用があるならまたかかってくるはずだ。 深く考えず、携帯を無造作に投げて、先ほどのループをする。私はいつしか、眠りに落ちていた。
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