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朝の目覚めは悪くなかった。
強すぎない日差しが暖かい。
「んっ……」
顔を上げ、携帯のフリップを開くと着信があった。ユキからのメールと、
「椿姫から電話?」
不思議ではないが、最近は珍しい。彼女はとても優しい。メールも週一くらいでしかしてこないのが、突然の電話である。
とにかく、ユキに適当に返事をしてから椿姫にかけ直す。
「……椿姫?」
電話はすぐに繋がった。何かにつけて律儀だが、1、2回の呼び出しで通じるとは。
「……あ、ハルちゃん。おはよー」
椿姫は特有のポワポワとした喋り方であいさつしてきた。
「元気かな? ハルちゃん」
「ああ、元気だぞ」
「最近、学校お休みしてるから風邪かと思っちゃったよー」
行っては休んでという風に飛び飛びで休んでいたが、一気に長く休んだせいで心配して電話してきたようだ。
「自分、基本風邪とかひかないんで」
「そうなんだー。心配しちゃったよ」
ほっ、と息をついて心底安堵した風だ。
「用事はそれだけか? 椿姫」
ないのなら早々に切ってしまいたい。気持ちはありがたいが、話したい気分ではない。ひどいとは自分でも思った、うじうじしたところで意味がないことも。
「待って、ハルちゃん!!」
突然の大声に吃驚してしまった。思わず携帯を取り落としそうになって、慌てて掴む。
「……わわ、椿姫、いきなり大声で」
「あー、えーと、ごめんね、でも、でも、相談したいことがあって!」
「相談……すか?」
慌てようから見て、ただ事ではないと思う。どこかわざとらしく感じたのはきっと気のせいだ。
「ハルちゃんは今日、学校にくるのかな? 来てくれるとありがたいです○」
「……すまない、今日は用事があるんだ」
無論、用事などない。
「お、お願いだよ!」
「っ! 悪い」
心苦しいが、言い残して電話を切った、ついでに電源を落とし、部屋の反対に向かって投げる。
「すまない、椿姫……」
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