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真っ暗な"そこ"で沙慈は目を開けた。目の前に広がる闇、闇、闇。
足元を見れば踝(クルブシ)の高さ位まで浸かる血の海が広がっていた。
「よぉ、沙慈」
聞き覚えのある声に振り返るとそこには、いつも見ている顔があった。
「……狂……」
呼ばれた相手はにっこりと笑い、闇からはっきり浮き出るように輝く金色の瞳が細められる。
逆に沙慈は無表情で狂を見つめる。その金の瞳は狂程輝いてはいない。
「こうやって、面と向かって話すのは初めてだな」
「……そう、だな」
ケラケラと笑う狂と打って変わって沙慈はやや嫌そうな表情を浮かべる。全てにおいて真逆な二人である。
「そんな顔すんなよ~。そんなに嫌いか?僕が。狂気のままに剣を振るう"自分"が」
「違うっ!お前は僕じゃないっ!!」
沙慈は狂の言葉を振り払うように首を横に振る。狂は一瞬寂しいような悲しいような表情を浮かべたが、すぐに嫌味な笑顔に戻る。
「よく言うっ!"後から"出て来た分際で……ずっと僕が"沙恵"だったのに、お前が出たせいで――」
肩を竦めて見せる狂に沙慈は何も言い返すことが出来ない。
事実なのだから仕方ないのかもしれない……。
沙恵は幼少の時に両親を殺され狂気に染められてしまった。それを止めようとした親友によって、奇しくも沙恵は二人に分かれてしまった。
言うなればこの空間は沙恵の心の中で、この奥底に二人を合わせた存在である沙恵の本当の心が眠っているのだ。
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