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「……ら、知らせろ」
「承知しました」
ぼんやりと覚醒した沙慈の耳に障子の向こうの会話がうっすら届き、次の瞬間には、はっと目を開けた。
(ここは……新撰組の屯所、か。明るいな、今は何時位だろう……)
そんなことを考えながら身体を動かさずに目だけをキョロキョロと動かす。
昨夜は身体を完全に狂に預けてしまっていたが、ずっと中で見ていたので状況はある程度分かっているが、気を失ってからは流石に分からない。
少し身体を捻ってみると腹部が少し痛んだ。峰打ちとは言え、沖田の突きを受けたのだから仕方ない。
激しい運動は無理そうだが普通に動くには大した支障はなさそうなので、起き上がり障子をゆっくり開けて、固まった。
(なんだコレ……壁か!?)
勿論壁がある訳ではない。壁と見間違うばかりの大きな背中が障子の前に立ち塞がっており、外が見えないのである。
「む、目が覚めたか」
沙慈が口をだらし無く開けたままぽかんと立っていると、目の前の壁は後ろを振り返って言った。
「副長を呼んでくるからここにいなされ。くれぐれも下手な考えは持たないように」
壁は見た目にそぐわぬ優しく穏和な口調で沙慈に言うと、すたすたと立ち去ってしまう。あれだけの巨躯にも関わらず足音が静かで、気配さえ感じられなかった。
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