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そんなことを考えている沙慈に山崎はにへら、と笑いながら言った。
「わいの仕事は他にあったし、上におったのは単なる趣味や。わい、人間観察が趣味やねん~」
間延びしたその声に、沙慈は引き攣った表情を浮かべた。
「それはまた……悪趣味な」
「むぅ、中々の毒舌やねぇ」
「オイ、何談笑してやがる」
沙慈の背後から再び声が掛けられる。独特な低音のその声の主は開かれた障子に寄り掛かって、不機嫌そうにしていた。
「嫌やなぁ、副長。ちょっと位ええやないですか」
山崎が苦笑しながらそう言うと、副長――土方はふんと鼻で笑った。
島田に見張りを指示すると、土方は腰を下ろす。
沙慈は慌てて布団を片付けようとするが、もう既にそれは無く、どうやら山崎が片付けていたようだ。よく気が回る男である。
「お前も突っ立ってないで座れ」
土方からの苛立ったような声と視線を受け、沙慈も取り敢えず座る。この狭い部屋に三人がピッタリと納まった。
「さてと、テメェにゃ二、三聞きてぇことがある」
有無を言わせないその言葉に沙慈は頷く。今更出し惜しみする気もない。
「山崎君に頼んでテメェのことは色々調べたが、ちっと分からねぇ所がある」
土方はその鋭い目を真っ直ぐ沙慈に向けてくるが、沙慈はチラリと山崎を見た。
(山崎さんの仕事は僕の身元の調査か……)
沙慈の視線に気付いた山崎はにっこりと笑った。沙慈は内心舌打ちをする。勝手に他人に自分のことを調べられるのは、誰でも良い気分はしないだろう。
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