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「で、どこまで調べたんです?」
沙慈は内心を隠しつつ、ぶっきらぼうに土方に尋ねる。すると土方は山崎に目配せをし、コクリと頷いた山崎が答えた。
「露原と言う苗字の者を調べた所、京都には一人しかおらんかったから楽やったわ」
どこか冷たい笑顔、仕事の顔になったらしい山崎は続ける。
「露原兼貞(カネサダ)っちゅう者が今から大体十年前に骨董屋をやっとったようや。家族三人で仲良うしとったようやが、一年も経たんと無くなってもうた……一家が惨殺されてな。そっから先露原っちゅう苗字の奴はおらんかったが、それから四、五年経ってまた現れた。あんさんのことや」
山崎が言い終えるまで、沙慈はずっと正座を崩すことなく黙って聞いていた。
土方が黙っている沙慈に意地悪げに語り掛ける。
「だがどうも気になることがある。一家が惨殺された時、一人娘の"沙恵"だけは見つからなかったらしい……その後数年経って帰って来たのは、"沙慈"という小僧――」
そう言って鋭い目で沙慈を見据えると、一冊の日記帳を畳みに投げ置いた。流石の沙慈もこれには目を丸くし、慌てて懐を押さえた。
目の前には"つゆはらさえ"と名前の書かれた、自分が大事に抱えていた筈の日記帳があるのだ。
「何故これを、貴方が持っているんです」
沙慈は何も入っていない懐を押さえながら、底冷えする声を発した。
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