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「分かるか、沖田」
狂は口元を吊り上げて更ににじり寄る。ギリギリと鍔元が軋んだ。
「真っ暗な闇の底で、ただただ明るい世界を見ることしか出来ない苦しみを」
芝居がかった口調で話す狂。表情は笑っているが、それは何処か歪んでいて悲しみを帯びていた。これを沖田は見逃さない。
「分かるかっ!?暗闇の中でしか生きられない僕は、今こうしているこの瞬間しか表に出られないんだよ!!」
ははは、と渇いた高笑いをして刀を下ろした狂は左手で顔を覆う。
沖田も刀を下ろして、真っ直ぐに狂を見つめた。
「貴方は……笑っているんだか、泣いているんだか」
困ったように眉を下げる沖田を、狂は固まった表情で見返した。以前友に言われたことと同じようなことを言われたからだ。
「貴方も引っくるめて強くしてあげましょう……露原さんとの、約束ですから」
にっこりと笑い掛ける沖田に、狂は鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。この上なく間抜けな表情に沖田は、クスリと笑みを漏らした。
沖田は初め、沙慈自身を強くして狂気を丸め込もうと考えていた。
――だが違った。
狂も沙慈も同じなのだ。性格は真逆でも、本質は同じ。何を今更と言いたい所だが、沖田はそこに気付けていたようでいなかった。
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