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父の破綻した生活に退廃的な魅力でも見いだしたのだろうか。そんなものになんの実もないことは、五年も一緒に居ればわかるはずなのだが。 愛していたから、などという三文台詞では納得できない。愛などさほど高尚なものではないはずだ。 私に言わせれば、二人の間の愛など、部屋すみに溜まる塵である。日常を継続することで降り積もる塵である。日常の変化を嫌う狭量な依存心が、本来ならば掃いて捨てるべき塵を、愛と呼ばせるのだ。 きっと、母は契機がなかったのだ。父と関係を破棄するきっかけが。だからともに過ごした意味のない時間を、愛などと聞こえの良い綺麗事にすりかえて、あまつさえ子供まで孕んだ。
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