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しかし、その話はあまり良い思い出ではないのだ。
応援しているチームが劣勢で、父の機嫌は試合の終盤に入ると次第に悪くなっていく。初回から飲み始めた酒にもだいぶ酩酊していたのだろう。
近くで観戦していた破落戸たちの口汚い野次に、五月蠅いと難癖をつけ、たわいのない、くだらない諍いをはじめてしまった。
多勢に無勢なのか、父はみっともなく殴られ、無様に倒れこんだ。気が荒い破落戸たちは満足せずに、父に暴力を加え、こらえかねた父は涙をぽろぽろとこぼしながら、すみませんすみませんと繰り返した。
それが、私の記憶の根底にある偽りない父親の姿である。
程度の低い虚勢ばかりで実のない、およそ惨めな男。
私の父はそんな男だった。
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