13/21
前へ
/21ページ
次へ
しかし、その話はあまり良い思い出ではないのだ。 応援しているチームが劣勢で、父の機嫌は試合の終盤に入ると次第に悪くなっていく。初回から飲み始めた酒にもだいぶ酩酊していたのだろう。 近くで観戦していた破落戸たちの口汚い野次に、五月蠅いと難癖をつけ、たわいのない、くだらない諍いをはじめてしまった。 多勢に無勢なのか、父はみっともなく殴られ、無様に倒れこんだ。気が荒い破落戸たちは満足せずに、父に暴力を加え、こらえかねた父は涙をぽろぽろとこぼしながら、すみませんすみませんと繰り返した。 それが、私の記憶の根底にある偽りない父親の姿である。 程度の低い虚勢ばかりで実のない、およそ惨めな男。 私の父はそんな男だった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加