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父の娘、喪服の少女は、大変でしたね、とお茶を濁した。
私は少々下卑た笑いをうかべ、ここに来た本当の理由はね、と語りかけた。
この男が、本当に死んだかを確かめる為に来たんです。ようやく私はこの男から解放されたのかを知りたくて。
でも駄目ですね。忘れよう忘れようと必死だったせいか、この男が本当に私の父だったのかも分からないんですよ。
ふふふ、と私は力なく笑った。
母の口癖だった。
恨むくらいなら忘れなさい。居ないのが不幸せなんじゃない、あたりまえと思えば、辛いことなんてないだろう。
そう、母の教えの通り、すっかり忘れてしまったのだ。
だからこそ、私にとって父は,
憎しみという人間らしい感情すら風化した、およそ関わりあいのない他人に成り下がったのだろう。
悲しみも喜びもない。私の心は無風である。
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