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父は運輸会社に就職した。会社と言っても家業に毛が生えた程度のもので、社長自ら軽四輪の荷台に荷物を積む込み、ハンドルを握るような会社である。 従業員は社長を含めて四人。それでも戦後の復興から高度成長へと日本の経済が移行する過渡期であったから、それなりに忙しく暮らしていたらしい。 しかし、この時分いくらかの問題を起こしている。これは父の姉、父とは兄弟のなかで唯一仲の良かった藤子伯母に聞いた話である。 父は少年期から青年期にかけてある種の悩みを抱えていた。外見的なコンプレックスである。 それは南方産を思わせる祖父ゆずりの彫りの深い顔の造作でも濃い体毛でもなく、父が極端な矮躯であったことだ。兄弟のなかで、祖父祖母を含めても、父は頭ひとつふたつ小さい小男であった。
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