花園の鍵の系譜

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雅孝先輩が作業するデスクの脇の引き出しを開け屈み込む。 確かここに入れておいた筈だ… 数冊の固いファイルの影に隠れるようにして小さな箱が有った。 「あぁ、有った」 「ん?…瀬渡、それ」 「先輩から頂きましたけど、俺は使いませんし。山神にやろうと思いまして。―おい山が…」 「わーっ!!」 伸びてきた先輩の手が俺の口と腕を押さえる。 「ダメダメ!!!っそれは駄目!!!」 「え。…でも、俺はID証無くすつもりは無いので、使わないんですけど…」 それにこれは華美で、俺には少々似合わないだろう。 それなら、山神にやった方が意味が有ると言うものだ。 「絶っっっ対、駄目!!これは俺が瀬渡の会長就任祝いに贈ったんだから瀬渡が使うの!!むしろ今から付けろ!!」 俺の手から箱を取った先輩が俺のブレザーに手を差し入れる。 ―就任祝いだったのか。 どうりで、と、取付にかかられた胸ポケット付近を見遣る。 白銀のチェーンに、ごくごく細かい黒・赤・金の薔薇が彫り込まれ、カードの穴との接合部には立体の青い薔薇の飾りがある。 白銀・黒・赤・金はそれぞれ白黒赤金の薔薇達を指し、青薔薇はそもそも校章にもなっている。 この薔薇がサファイアに見えて、ちょっと怖い。 高価なものをぽいぽいと人にやってしまう先輩の財力が恐ろしい。 「…」 バチン 「痛っ」 「さりげなく押し倒さないで下さい変態」 しゃがんでいた俺はいつの間にか押し倒されていた。 流石百戦練磨の雅孝先輩、チェーンを着けているだけと油断したのがまずかったか。
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