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此方を一瞥すらせずにそう言い放ったシルヴァにシフォンの顔から笑みが消える。
『そういう奴だよ、お前は』
シフォンはボソリとそう呟きながら踵を返すと、部屋から出ていこうとした。
そして背中越しにシルヴァの声が聞こえてくる。
『彼奴を放っておいてくれ』
シフォンはパタンと扉を閉め、クッと喉を鳴らすと嫌な笑みを浮かべて再び廊下を歩き出した。
放っておいてくれだぁ?
あんな面白れぇ奴、放っておく馬鹿が何処に居んだよ?
殺しても死なない体。
不老不死。
元天使。
どれもこれも未知で素晴らしい研究材料じゃねぇか。
誰が彼奴を手放すものか。
欲しかったサンプル(血液)も手に入った事だし。
ジンを研究室に連れてきて正解だった。あんな猿芝居で騙されてくれて感謝するぜ。
シフォンは研究室に続く階段を下り、手前にあった硝子張りの部屋に足を踏み入れた。
そこに居る白衣を着た研究員の誰もが忙しなかった動きを止め、シフォンに挨拶をしていく。
『お疲れ様です、新室長』
そう……シフォンこそ、この研究室の責任者であり、生体クローンのスペシャリスト。
シフォンは保育器の中でいつの間にか息絶えていた赤ん坊を冷めた目で一瞥すると、皆を振り返る。
『前の室長が作ったこんな出来損ないより、面白いものが手に入った。お前等、寝る間も惜しんで研究に励めよ』
そう言って取り出したのは、採ったばかりの約800mlのセレスの血液だった。
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