序章 夏休み

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そう遠くない未来。そう聞けば身近に感じる世界の中、とある家の電話が鳴り響いた。暫くすると、誰かが扉を開く音が聞こえた直後に、受話器を取る音がした。 「…もしもし?」この少年[時任 章]は、夏風邪をひいて寝込んでいた。本人からすれば良い迷惑だ。しかし、電話の相手はそれを考慮する事もせずに喋り続けた。 「ヤッホー!元気にしてる?ねぇ!今日は終業式だったんだよ?何で来ないのよ!」長い間喋りそうだったので、章が喋り始めた。 「…あのなぁ、風邪引いてるのに学校に行ってどうするんだよ?ただ風邪を遷すだけだろ?」すると、電話の相手は黙り込むだけになった。 「………怒ってる?…」少し泣きそうな声音に変わった彼女が、小さく呟いた。それを聞いた章は、何の事かさっぱり分からずに電話の対応に戻った。 「怒るって…何に……ところで、用件は?」すると、彼女はスイッチが切り替わったかの様に、声音を変えた。 「やっぱり怒ってるでしょ。ところでね!今度皆で海に行く事になったんだ!一緒に行こうよ!日にちは明々後日の日曜日!バス停で集合よ!それじゃあね!バイバイ!」そこで電話が切れた。受話器を置いた章は、自室に戻って布団に潜った。どうせ風邪を引いている身だ。出歩く事もあまりない。 「……おぉっと!海には行きたいしなぁ……明々後日の用意をしなくちゃな」布団から跳ねる様に起きた章は、その時来た頭痛を我慢しながらテキパキと用意を始めた。
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