序章 夏休み

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あの電話から、あっという間に時間が過ぎた。そして、章の風邪もすっかり治っていた。 「…遅いなぁ、皆。」章は、一番乗りでバス停に到着していた。しかし、到着した時間に誰の姿も無いまま、かれこれ1時間程待っていた。すると、遠くから誰かの走って来る音が聞こえた。 「……ぃ…ぉ~ぃ……ヤッホー!アキちゃん!元気してた?」勢い良く章の肩を叩いた少女[羽田 燕]は、章と同じクラスの友達だ。そして、この海水浴計画の首謀者でもある。彼女は、その明るい性格を発揮して次々と友達を増やしていく傾向がある。なので、彼女と二人きりでも何ら問題なく接している。さらに言うと、幼なじみなので燕の行動パターンを、章は熟知していた。 「イテテ…少しは加減しろよ。」章が呆れていると、何か妙な感覚が章に来た。何かに見られている。周りに人は羽田以外は居ない。そう思っていると、草の茂みからカメラを持った少年が飛び出して来た。その少年に、章は見覚えがあった。 「…やぁ!章も燕に呼ばれて来たのか?」この少年[中川 真]も燕と同じく章のクラスメイトである。親子揃ってのカメラオタクで、章が電池等を買いに行くといつも必ず見つけるくらいだ。 「マコト君もオハヨー!他の皆も遅いねぇ?」自分も遅れて来たくせにと思った章だったが、一応黙っておいた。すると。 「…それなんだけど…皆止めとくってさ。」真が燕に教えると、燕は少し落ち込んだ様に俯いた。 「…そうなんだ…ふぅん…分かった………丁度よかった!ほら!バス来たよ!」必死に明るく振る舞おうとする燕の後ろに、赤と青の縞模様が似合う大柄なバスが停まった。ブザーがなると、扉が開いて数人の乗客が降りて来た。章は、その中に見知った顔を見つけた。 「…あれ?夢見姉妹?」章が指差した方向には、少し小柄な双子が、バスのステップを降りて来ていた。彼女達は、章の二つ年下の中学一年生であり、更にはこの辺りの中で多分一番大きな神社の巫女で、このあたりでは有名な双子である。しかも、章とは昔から友達でよく[章、燕、空、海]の四人で楽しく遊んでいたのだ。 「…ゲッ!アキちゃん」階段を、妹よりも先に降りた降りきった姉の[夢見 空]がいきなり立ち止まった。なので当然、空の後ろを降りていた妹の[夢見 海]がぶつかった。その衝撃で姉の空はステップから落ちた。だが、残り一段だった為転がりはしなかった。
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