嗚呼、神様

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どうしてわたし達に生が与えられるのか、わたしには最早関係のない問題だ。 そして、きっと彼にも。 彼にとって、それは与えられるというよりも、あるべきものなのだろう。 わたしは、神様から見ると、とんでもない恩知らずなのだ。そして、彼には、初めから神なんてものは存在しない。 「愛しているという言葉では足りないだろうか」 彼は、わたしにそう言った。 愛している。それは、わかっている。わたしも、彼を愛しているから。 「貴方の愛はいつまで続くのか、それが知りたいの」 彼は答えなかった。 変わり続ける時代の中で時代を変え続けている彼にとって、永遠なんてものは理解し難いものなのだろう。わたしだってそれは十分理解しているつもりだ。 貴方は、どんな壁に突き当たっても必ず突破口を見つけた。でも、それも白衣を着ている時だけ。 世間から天才科学者と呼ばれる彼だって、わたしのぶつける無理難題からは回避出来ないのだろう。 「愛している」 彼は、こればかりを繰り返した。 愛していると言われる度に、不安が増してきた。彼が、愛していると言うのはわたしにとっては当たり前な事になりつつある。 もしも、これがなくなってしまったら、わたしは生きていけないのではないか。空気を失った地球上の生命のように。 「世界から、空気が無くなれば」 「そんな事はまずあり得ない。僕がさせない」 「もしもの話なの」 「『もしも』もない。君が生きていけない世界など僕には耐えられない」 彼は、わたしを抱き締めた。 貴方がこう言ってくれているうちに、死んでしまいたい。 そんな事を言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。 「つまり、君と僕は『永遠』を手にいれた」 今日、わたしは彼に新しい部屋をもらった。何もかもが、真っ白だった。窓も何もない、真っ白だけ。 なんだかよくわからなくなった。 彼が何を言っているのか理解出来なかった。 彼はこう言った。 「僕のそばに居てくれさえすればいい」 わたしは全てを奪われた。 そして、与えられたのも全て。 わたしは、彼は永遠を見つけたのだと悟った。 「君しかいない。そして君には、僕しかいない」 彼は、優しくそう言った。 ああ、神様。 わたしはあなたの手も届かぬこの世界で生きていきます。 どうか あなたさえもを忘れ、彼だけを愛することをお許し下さい。
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