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「貴方とお花見がしたい」
「わかった。明日病院に掛け合ってみよう」
僕が笑うと、君は安心した様だった。
君は紅茶で一息ついてから、大好きなケーキに手をつけはじめた。
「ねえ」
「ん?」
君は、僕と目を合わせて首を傾げた。
「どうして貴方は来てくれるの?」
ねえ、君。
君は、僕をどのくらい知っているのだろうか。
僕は君の全てを知っている。好きな食べ物も、口癖も、好きな色も、君の愛した人の名だって。なのに、君の身体に起きている事が理解できない。
ああ、僕は愚かで無力なのだ。
「ここが僕に与えられた場所なんだよ」
君が僕をわからなくなっても、僕は君の側に居続けるつもりだ。
それが君のためなのか、僕にはわからない。それでも、君から離れる事は考えられないのだ。
「どうして?」
「さあね」
僕は笑った。きっと、貼り付けたような笑顔だろう。
ねえ、君。
君が言っていた二人だけの世界は僕だけでは探しきれないんだ。
君は言ったね。
僕の側が、君に与えられた唯一の場所なのだと。
それならば、僕にとっても、君の側が僕の居場所なのだ。
「ああ、」
君に明日など存在しないのだ。
それでも、僕らには明日を待つことしか出来ない。
「早く明日にならないかしら」
桜は、もうすぐ散り終わってしまう。僕らが花見をするなんて、これからにも先きっとありえない。
希望なんて、少しも残っていない。
ならばせめて君のそばに居て、桜が散るその美しい光景だけでも、僕は見届けたいと思った。
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