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「3日前のことです。父宛てに電話がかかってきました。
と言っても、固定電話ではなく、携帯電話の方ですが。
私は父と2人暮らしで。家はこぢんまりとした普通の家です。
私も携帯電話は持っていますが、ほとんどメールのやり取りだけで。」
取り乱した依頼人はよくあることだが、話があちこちにいってしまい、収集がつかない。
拓真は落ち着いて。とお茶を勧めた。
依頼人―名前を相田実花と言った―は落ち着いてから、3日前のことを続けた。
「夕食の時間になったので、父の部屋に声をかけました。すると、中から父とは思えない、動揺した声が聞こえてきました。
もちろん、何かあれば動揺はするでしょうが、夕食の時間だから呼びに行って動揺することはないですよね。
それで、部屋のドアを開けたら、携帯電話で誰かと話しているところでした。
父は、ちょうど会話が終わったところなのか、携帯電話を背広のポケットに仕舞うと、慌てた様子で、ちょっと出てくる。と外へ。
遅くなるかもしれないから先に寝ていてくれと言われて、どこに行くのか尋ねようとしたのですが、答えている間も惜しいのか、出て行ってしまいました…。」
「それから家に帰って来ない、と?」拓真の問いかけに、実花は頷く。
「こんなこと初めてなんです。どうか、探して下さい。お願いします。」
「わかりました。もう少し詳しい話を。」
女性には弱い拓真。これが、大学生といううら若き美人ならば、余計に奮起しないわけがない。
安心させるように、力強く頷いた。
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