潜入と再会

6/8
598人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
「食わせてやれ、佐介。飯食ってりゃ、少しは黙るだろ」 「そうですね」 佐介は湯気の立つ粥を匙に乗せ、燕の雛のように口を開けて待つ木根の口に突っ込むと、木根は言葉にならない言葉を口走りながら熱さに悶えた。 「木根さんは、ちょっと火傷した位が静かになっていいですよ」 過去を掘り返した報復に、ちょっとした悪戯だ。佐介は笑った。 「なんでい。ひでぇな、おい」 そんな風に時折見せる佐介の子供っぽさは、かさついた木根の心を癒す。 同時に、何故か場違いな懐かしさを感じていた。 ふたりの碗が空になった頃、ひたすらに口を閉じていた一景が口を開いた。 「瑠璃が、死んだぞ……」 「……えっ」 突然の知らせに、佐介の動きが止まる。 そして、一景は表情を崩さぬままに言葉を続けた。 「昨日の朝方な、自分の胸をひと突きだ」 「そんな……」 佐介の目に飛び込む藍色の風呂敷には、瑠璃の身請け金が包まれるままになっている。 呉服問屋の好色な御隠居の代わりに、一景が瑠璃を身請けする手筈だった。 「これはただの我楽多だ」 道端に唾を吐き捨てるような物言いに、一景の無念さを感じる。 佐介はただ、その風呂敷を見ていた。 「おい」 話に割り込んできたのは木根だ。 「それは丹羽の金だろう? 誰が死んだ? 何に使う金なんだよ」 興味津々といった様子の木根に、一景は眉をひそめた。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!