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「食わせてやれ、佐介。飯食ってりゃ、少しは黙るだろ」
「そうですね」
佐介は湯気の立つ粥を匙に乗せ、燕の雛のように口を開けて待つ木根の口に突っ込むと、木根は言葉にならない言葉を口走りながら熱さに悶えた。
「木根さんは、ちょっと火傷した位が静かになっていいですよ」
過去を掘り返した報復に、ちょっとした悪戯だ。佐介は笑った。
「なんでい。ひでぇな、おい」
そんな風に時折見せる佐介の子供っぽさは、かさついた木根の心を癒す。
同時に、何故か場違いな懐かしさを感じていた。
ふたりの碗が空になった頃、ひたすらに口を閉じていた一景が口を開いた。
「瑠璃が、死んだぞ……」
「……えっ」
突然の知らせに、佐介の動きが止まる。
そして、一景は表情を崩さぬままに言葉を続けた。
「昨日の朝方な、自分の胸をひと突きだ」
「そんな……」
佐介の目に飛び込む藍色の風呂敷には、瑠璃の身請け金が包まれるままになっている。
呉服問屋の好色な御隠居の代わりに、一景が瑠璃を身請けする手筈だった。
「これはただの我楽多だ」
道端に唾を吐き捨てるような物言いに、一景の無念さを感じる。
佐介はただ、その風呂敷を見ていた。
「おい」
話に割り込んできたのは木根だ。
「それは丹羽の金だろう? 誰が死んだ? 何に使う金なんだよ」
興味津々といった様子の木根に、一景は眉をひそめた。
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