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それからしばらくしてからだった。
彼女が視界に入ったのは。
「私と約束してください……」
そんな声が聞こえたのは、向こうから歩いてくる人が彼女の前を通った時だった。
雨の中、街灯の下で真っ黒な傘をさし、そんなことを言うのだ。
その人は気味悪そうな顔をして、早足になり、僕の横を通りすぎていく。
僕とて同じだ。歩調を早め、彼女の前を通りすぎる。
「私と約束してください……」
彼女の声が聞こえてくる。
ただ、僕の場合は少し違っていた。後に言葉が繋がった。
「手袋落としましたよ……」
僕は思わず彼女に振り向く。
彼女の手には本当に僕の手袋が収まっていた。その手は僕へと向かって伸ばされていた。
「あっ……ありがとうございます」
傘を出した時にカバンが開いていたのかもしれない。
彼女の手から手袋を受け取る。
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