指きり

3/13
前へ
/14ページ
次へ
それからしばらくしてからだった。 彼女が視界に入ったのは。 「私と約束してください……」 そんな声が聞こえたのは、向こうから歩いてくる人が彼女の前を通った時だった。 雨の中、街灯の下で真っ黒な傘をさし、そんなことを言うのだ。 その人は気味悪そうな顔をして、早足になり、僕の横を通りすぎていく。 僕とて同じだ。歩調を早め、彼女の前を通りすぎる。 「私と約束してください……」 彼女の声が聞こえてくる。 ただ、僕の場合は少し違っていた。後に言葉が繋がった。 「手袋落としましたよ……」 僕は思わず彼女に振り向く。 彼女の手には本当に僕の手袋が収まっていた。その手は僕へと向かって伸ばされていた。 「あっ……ありがとうございます」 傘を出した時にカバンが開いていたのかもしれない。 彼女の手から手袋を受け取る。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加