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公平はそう思うが、幼い頃からの付き合い故に、学の研究オタクっぷりもわかっているので、学には無理なことだとわかっている。幼い頃から一緒に育ち、三つ年下の学は、お互いに一人っ子と言うこともあって、公平には弟のような存在だ。
「……あなたは……」
貴子が目を覚ましたようだ。
「気付いたか。……おっと、いきなり起き上がらないほうがいい。今、学を呼んでくるから。そのままにしてな」
本当にタイミングが悪いな、学は。
公平は早口に言うと、部屋を後にした。
柳公平と言ったかしら、あの人。
ベッドの中で、貴子は倒れる前のことを思い出していた。
私が夫だと勘違いしていた人。でも、本当はあの人じゃなくって、最初にいた、あぁ、まるで使用人のような人。名前は松浪学。
自分の勘違いからの言動に、彼女は恥ずかしさと屈辱で、大きなため息をついた。
こんな始まり方ってあるのかしら? ましてや、私は政略結婚なのに……。うまくいかなくては、西園寺家の復興にも関わってしまうのに。
その時、控えめなノックの音がした。
「貴子さん。……いいですか?」
学の声だ。彼女は「はい」と促した。
「失礼しますね」
そう言って入ってきたのは、学だけではなかった。いや、公平ぐらいまでは予想できていたのだが、さらに二人、いた。
「初めまして、貴子さん。学の父の、幸之助です。こちらは家内の翠です」
ニコニコとした眼鏡の老人が、自分と、着物をきれいに纏った女性を紹介した。
「来て早々大変でしたわね。大丈夫かしら? また公平さんがいじめたんではなくって?」
学の母・翠は笑って軽く、公平を睨んだ。公平も慣れているのだろう、笑って受け流した。
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