プロローグ

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 時は昭和初期と言った頃か。国民は、上流階級・中流階級・下流階級、その他の四階層によって大きく分かれていた。  しかし、戦乱の世が遠くに過ぎ去っても、別の下克上が、世間を脅かしていた。最も、もっぱら貴族と呼ばれる者たちに関してだが。  金銭を余す故に、会社に投資をし、それが成功すれば良いが、失敗すればそれまでの華やかな暮らしは一瞬にして失われる。貴族の階級が下がるだけならまだしも、庶民と同じ生活に一気に貶められるものも少なくなかった。西園寺家も、その危機にさらされている一家の一つだ。  西園寺家の長女・西園寺貴子は、汽車に揺られながら車窓からの風景を見ていた。いや、その瞳には映っていたものか? ただ、そちらを見ているだけのようにも見える。  西園寺家を援助してくれるという財閥が現れた。西園寺家にとっては願ってもない話だ。なにせ、これで庶民の生活に堕落する可能性はなくなったのだから。  ただし、それも条件があった。【貴子が、松浪家に嫁ぐこと】である。  松浪家は都心から離れた、N県の森の中にあると言う。それならば、孝子自身は庶民の生活に落ちたのと全く一緒ではないか。貴子は猛反対したが、家のことを考えると、負けてしまった。
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