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やがて、汽車は目的地のホームに停まった。都会の令嬢と知って、汽車の外に彼女の荷物を出してくれた。
「これで間違いはありませんでしょうか?」
実際に運んでいた者たちとは違って、少し階級のあるであろう者が、彼女に荷物を尋ねた。
「ありがとう。大丈夫よ。ここからは、先方の方々がしてくださるから」
本来、西園寺家の娘の輿入れともなれば、家の者が付くのが慣例ではあるが、その者たちもいずれ帰ってしまう。その別れを何度も繰り返すことになるのが辛くて、貴子は一人でこの地に降りることを決めたのである。
それにしても迎えの者はどこにいるのだろう? いや、それ以前に来ているのか? こちらの到着時間はちゃんと伝えてあったはずだ。それに自慢ではないが、貴子の荷物はスーツケースにして十個はくだらない。これでも減らしてきたほうなのだが、これだけのスーツケースの山があれば、先方とて気付くはずだろう。
いずれにしても、客人をこんなに待たせるなんて、ここの家の教育はどうなっているのかしら?
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