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公平はヒラヒラと後姿に手を振りながら、呟いた。
「がんばれよ、学。その女を妻にするのは大変だと思うぞ――……」
学は屋敷に着くと、何人かの使用人に、駅で公平が見てくれている彼女の荷物を取りに行くようにさせた。そして、メイドに新しく用意させた貴子の部屋に彼女を寝かせた。
このまま、貴子の目が覚めるまで彼女の傍に居ようと思ったが、自分の服が汚れていることを思い出し、部屋を後にした。
「先生!」
着替えて、自室から出てきたところで助手の一人に声をかけられた。
学の家は、代々の医者であり、一方、研究もてがけている。学が公平と仲良くしているのは、家柄の関係上、幼い頃から繋がりがあったからだ。
「例の菌の繁殖、成功しそうです! ちょっと来て頂けませんでしょうか!?」
『例の菌』とは、最近学たちが発見した新種の菌だ。研究を進める上で培養・繁殖したかったのだが、うまくいかなかったのだ。
この言葉に、研究者として学は飛びついた。
「わかった、すぐ行く」
学は呼びに来た助手と共に、研究室に駆け出した。
「入るぞ――」
言うが早いか、ノックもせずに公平は貴子の眠る部屋の扉を開けた。
「あれ。……また、研究室のほうに行ったかな?」
部屋には貴子の荷物と、そしてベッドで安らかに寝息を立てている本人がいた。
あれだけ第一印象が悪いんだから、せめて、目覚めるまで傍にいてやればいいのに。
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