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「はぁ~……、どうすんだよ。ったく…。」
俺は寒さしのぎに首に巻いたマフラーを耳元まで上げた。それでも風が吹けば頬が痛い。
「ちかぁ…」
俺は今は亡き彼女の名前を呼んだ。その声はあまりにも小さく、天どころかすれ違う奴にだって聞こえやしない。
千華(ちか)は2日前に交通事故で死んだ。俺達は親から捨てられた、いわゆる孤児ってやつで施設で育った。
だから俺らは家族同然の様にいつも一緒にいて、それが恋人同士になるのは当たり前だった。
互いに何を考えているのか口にしなくても分かる。空気みたいな存在。
そんな彼女が突然消えた。
「…ち、かぁ……」
溜め息と共に出た名前は震え、俺の目には涙が浮かんだ。
そんな俺に道行く人間は誰も気付かない。冷たいのは風だけじゃないみたいだ。
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