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部屋に戻りたくない。あそこには千華との思い出が詰まり過ぎてる。それに思い出だけじゃない。千華の好きだったアロマオイルの香りが部屋に染み付いて今でも香る。
千華のいない部屋に帰るなんて嫌だ。俺は行き先もなく、ひたすら歩いた。
そしたら何だか疲れてきて足を止めた。そして腹に手を置く。
「そう言えば朝からなんも食ってないな…」
「ほぉ。お若いのにそりゃいかん!」
「えっ?」
一人言のつもりで言っていたから返事が返ってきて驚いた。
見ると細身の初老の男性が伸びた髭を撫でながら俺に向かっている。
「な、なんすか…?」
「若い者が朝飯を抜いては力が出んっ!ほら、中に入りなさい」
男が俺の腕を引く。初老のくせに力が凄くて驚いた。
「って、なに部屋にいれてんだよ!!」
「部屋じゃなーい!ここは私の仕事場だ」
「仕事場?」
回りに目をやると似たようなチラシが部屋中に貼ってあった。
「…物件?な、なぁ!ここって不動産屋!?なぁ、そうなの!?」
「大正~解!だがちょっと落ち着きなさい。まずはご飯……」
「だったら俺に部屋を、しょ、か…い……」
そこまで言って俺の意識は遠退いていった。どうやら空腹に合わせて突然の興奮状態で酸欠に陥ったらしい。
「やれやれ。言わんこっちゃない」
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