5人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付くと目の前には白い湯気が漂いまさに出来立ての炒飯があった。頂きますなんて言うのも忘れてガツガツと口にいれる。全部たいらげるのに時間はかからなかった。
「そうか、そうか。それで君は部屋を探していたのか。年はいくつだ」
「22です」
「仕事は?」
「飲食店で働いてます」
腹を満たした俺はなぜ食事もろくにせず歩いていたのかを男に話した。男は俺が話終わるまで黙って聞いてくれ、聞き終わるとあれこれと聞いてきた。
「新しい部屋が決まったらどれくらいで入れる?」
「すぐには。…早くあそこから離れたいんです」
「…そうか」
男は立ち上がり何かのファイルを持って俺に渡す。そこにはある物件があった。
「ここなんかどうだ。家賃が割高なのと駅から少し歩くが……、まぁ住む分には贅沢だな。住み易さはちっと保証せんが」
「これ、マンションですよね!?俺一人だしアパートで十分です」
「確かに一人では広いかもしれんな。うーん、でも君にはピッタリだと思うんだがね…。おっ!ではこう言うのはどうだ!?」
「……どう言うのっすか?」
「もともと1ヶ月のフリーレント付きだが、君にはフリーレントなし!!代わりに入居を決定するまで家賃を半額にしよう。それまでは仮契約と言う事で仲介手数料も初期費用もいらんっ!!どうだ?魅力的な物件だと思うが?」
確かに。確かに魅力的過ぎる話だ…。そうまでしてこの人はここに俺を住まわせたいのか!?
「どうだ、青年。この話に乗るのなら名前を教えてくれるかの」
どうする?悪い話じゃないし、なにより……。
「福山 大地(ふくやま だいち)です」
俺は目の前の男に自分の名前を告げた。理由は決まってる。早くあの部屋から離れるため――。
それだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!