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「さぁ、どうぞ。部屋に入るにはこのカードキーを通してください」
外見だけでなく、中身も裏切らないマンション。本当に俺なんかが住んで良いんだろうか…。俺は一歩、また一歩とワックスで良く滑る部屋に足を踏み入れるたびに不安になった。
「いかがですか?日当たりも良いですよ。まぁいわく憑きですが問題ありません。この部屋だけではありませんからね。霊と住んでいるのは皆さん一緒です」
「……」
彼はなんて輝かしい笑顔でぶっちゃけているんだろう。
俺にはこの光景と耳で聞いた言葉が信じられずに固まっていた。
「なんだったら今すぐにでも電気・ガス・水道を開栓手続き致しますよ。お布団も我が家のをお貸し致します。今すぐ越してこられますか?」
「あ…あの……、えっ、と…」
「早く今のお部屋から離れたいのでしょう?」
「……」
この言葉で動揺していた気持ちがハッと我に戻る。
ああ、そうだよ。早く離れたい。大好きな千華の香りが残るあの部屋は、もう俺の戻る所じゃない。
「今日からでも…、いいですか」
「ええ、勿論です」
拳をギュッと握る。
俺は歩き出すんだ。…千華のいないこの世界を。
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