5人が本棚に入れています
本棚に追加
あの不動産とであって約5時間の時が経った。俺は今、だだっ広い部屋で管理人が好意で貸してくれた布団にくるまっている。
向こうからの荷物は明日にでも友達に手伝ってもらって運び出す予定だ。
みんな事情が事情なだけに手を貸してくれるだろう。
「千華」
俺は寝転びながら携帯画面に目をやり、はっきりと名前を呼んだ。
もうあの可愛い声は返ってこない。
それでも待受の彼女の笑顔を見ているとすぐ側に彼女がいるように感じられた。
『大ちゃん』
「!?」
ふわっと香るこの香りは間違えるはずもない。千華の好きだったアロマオイルのだ。
ふと管理人の言葉を思い出す。
霊と住んでいるのは――
まさか、本当に千華が!?
俺の胸中は微かな恐怖と希望に満たされていく。霊の存在は確かに怖い。だけどそれが千華だと言うなら大手を振って喜ぶだろう。
また千華に会える――。
チリン。
その時、小さな鈴の音が聞こえた。見ると携帯につけていた千華とのお揃いの鈴が揺れている。
「……なんだ、そうだよな」
俺はそれを見て気付いた。今の香りは千華の残り香。
『大ちゃん、いつもお疲れ様。はい、これ。私とのお揃いなんだよ?ここにいつも気持ちが落ち着くような香りを付けててあげるね』
そんな事を言って千華は俺の携帯にこの鈴をつけた。
「会いてぇよ……」
俺はさらにギュッと布団にくるまった。
最初のコメントを投稿しよう!