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「な、菜々子……?」
僕は目を疑った。
そこには、死んだはずの、僕の恋人が――
……ま、まさかな。他人のそら似ってやつだろう……。
そうだ。死んだ人間がこんなところにいるわけがない。
そう思おうとしたけれど、見れば見るほどにそっくりで、やがて菜々子にしか見えないようになってしまう。
黒く、つややかな長い髪。伏し目がちの大きな瞳。鼻梁はすっきりと。引き締まった薄い唇――
僕が凝視していると、その無遠慮な視線に気がついたのか、彼女がこちらを振り向いて、僕と目が合った。
心臓が跳ね上がる。
さっきまであれほど噴き出していた汗が、嘘のように止まった。顔から血の気が引いていくのがわかる。寒気すら覚えた。
「な、菜々――」
思わず名前を口に出しかけたところで、しかし彼女は何事もなかったかのように視線をそらした。
「あ……」
僕は肩透かしをくらった気分になり、彼女の横顔を見つめたまま動けない。ショックだった。
僕を憶えていないのか……? ……いや、やっぱり別人か……。
うなだれて、ため息をこぼす。
そんな僕の様子を不審に思ったのか、いつの間にか周囲の乗客達の視線が僕に集中していた。
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