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はっとして我に返り、とたん羞恥心が込み上げてくると同時に、また汗が噴き出してきた。
……なにやってんだろう、僕は。菜々子が死んだのは、もう三年も前なのに。吹っ切れていてもおかしくはない。
忘れた、と思っていた。
なのに、少し菜々子に似た女性を見ただけでこれか。情けないな……。
「くっくっくっ」
なんだか急におかしくなって、僕は笑った。
そんな僕を眺めていた乗客達は、いよいよ気が狂ったとでも思ったのか露骨に視線を外し、もう誰もこちらを見向きもしなくなった。
……ちょうどいい機会だ。ここで気持ちに整理をつけよう。もう菜々子の幻影に惑わされないために。
僕は改めて彼女に視線をやる。
ほら、よく見れば彼女とはちが――
そこで僕の思考は停止した。
わずかな差ではあるけれど、顔は確かに違う。
しかし、服が――あのワンピースは、菜々子が着ていたものと同じもの。この世に一つしかないワンピース。なぜなら
あれは、僕が彼女のためにオーダーメイドでプレゼントしたものだから――
「な、なんで……」
口に出した疑問はしかし、各駅停車の車内アナウンスによってかき消された。
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