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「いらっしゃいませ~。」
また今日もあの男の人は店に来て、いつもと同じ、すみっこの席に座る。
今日は水色のネクタイをしていて、髪の毛にちょっとだけ寝癖がついている。
もしかしたら寝坊したのかもしれない。
そんな事を考えていると、顔がにやけてしまう。
「おい。梨乃!」
「………?!」
急に頭を叩かれて、何も言えずに振り返ると、呆れ顔の亮太がそこにいた。
「勤務中に他ごと考えてにやにやしてんじゃねーよ。」
どうやら亮太には私が彼の事を考えていた事がばれてしまったようだ。
「そんな顔してたら他のスタッフにもそのうちバレるぞ」
「はい…気を付けます…。」
亮太も、“Sugar”の店員で、私が一番仲の良い男友達。
家が近くて、中学高校が同じで、大学生になってからは亮太がここのバイトを紹介してくれて働き始めたから、
もうだいぶ長い付き合いになる。
だから、亮太だけは私の気持ちを知っている。
「それにしたって亮太、力強過ぎ。女の子なんだから少しは手加減してよね!」
「はあ?!原付にはねられても無傷だったお前に何で加減して叩かなきゃなんねーんだよ…」
「ちょっ…それ言わないでよ!あれはたまたま…………っ!!」
「すいませーん」
私と亮太の口喧嘩が始まりかけた頃、
すみっこの席から声が聞こえた。
「それじゃ、失礼~」
嫌味ったらしく亮太に言い放って、私はその声の元に向かう。
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