第2話 ある領主の怒りと、心優しき奴隷達

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ただここで一つ問題が。 魔導を実戦レベルで扱える魔導師の数が圧倒的に少ないのです。 魔導は素質があったとしてもその教育には莫大な資金が必要です。 安くても一冊何百万シーグ(フェルナンデス公国の通貨単位)もする魔導書を買い、さらに数少ない魔導師に教えを請わなければいけません。そうして覚えた魔導も実戦で扱うにはさらに長い期間の鍛錬を必要とします。 これでは魔導が普及しないのも当たり前。幽鬼に対して人間族はあまりに無防備です。 「くそ忌々しい。せっかく異種族の受け入れが安定してきたという時期に」 身近にいた幽鬼を魔力の奔流のみで倒しながらシーグ様は舌打ちしました。 シーグ様の言うことを割と素直に聞き入れる領民のおかげで、異種族も他国に比べれば圧倒的に平和に暮らせる国になりました。 しかし幽鬼の襲撃で植え付けられた恐怖心により、領民は異種族に対する接し方を以前に戻してしまうかもしれません。怖い思いをしているのは異種族の皆さんも一緒だというのに…… 「あー腹が立つ。今までは直接的にちょっかいをかけてこなかったから放っておいたが、これはやりすぎだ。俺様の怒りを買ったことを後悔させてやる」 シーグ様はそう言うと、点々と血のついた雪の上に片膝をつき、パンッと小気味のいい音で手を叩いた後、その手を地につけました。ちなみにこの行為に意味はありません。ただの格好つけです。 光属性、拾弐の魔導書。『雨』 「シーグ様!?」 これは無数の光の棒を空から高速で落とす術。細かい対象など定められません。 「領民を犠牲にする気ですか!?」
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