第2話 ある領主の怒りと、心優しき奴隷達

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光属性、九の魔導書。『橋』 私が店の外に出たときにはシーグ様の目の前に光で出来た橋が形成されており、見覚えのあるその橋は恐らく敵の下へと続いている筈でした。 これで敵もシーグ様の存在に気付いた筈。もう後戻りは出来ません。 「……本当に大丈夫なんですね?シーグ様」 意地っぱりなシーグ様が他人の前で弱ってる姿を晒す。それだけでシーグ様の状態の悪さが伺えます。ですが私はあえて聞きました。 「無論だ」 ならば、いざという時はこの身をもって…… 「分かりました。ただし私も連れて行って下さい」 「……いくら弱いといえ敵は未知数の存在。俺様は大丈夫だがお前の身の安全まで保証は出来ないぞ?」 「足手まといにはなりません」 ふんと鼻をならしたシーグ様は、顎で私を促すと光の橋に手をかけます。 それと同時に消えるシーグ様の体。 私も何の躊躇なく光の橋に手をかけます。一瞬視界が光に染まったかと思うと、次に目に入ったのはシーグ様の背中。 『橋』は『檻』と同じようにポイントを入れ替える術です。橋の両端にポイントを設置し、ポイントに触れた者を瞬時に反対のポイントと入れ替えます。 私は視線をシーグ様の背中から前方へと移します。油断など微塵もありません。そんな私の目に飛び込んできたのは毛むくじゃらの妙な生き物。下半身は山羊のようで上半身は人。さらに顔は山羊のようと人と山羊が合わさったような生き物でした。 突然現れたシーグ様を見て驚いたように目を丸くする山羊は、黒い鞭のような尻尾をピンと立て、手に持った槍を向けて威嚇してきます。
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