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私はずっと授業などうわの空で一樹の腕の傷跡の事を考えていた。
白い肌に刻まれた醜い傷跡達。
一樹の腕は略紫色に近かった。
思えば一樹はもう夏も差し掛かる時期なのに長袖を着続けている。
私はその傷が誰かに知られて困るものである事を悟った。
悟らざる負えなかった。
あの表情の無い瞳は彼がとても厄介な状態に置かれている事を示しているのではないかと。どうして葬式を続けているのかと。
何回も何回も色々な考えが頭の中をクルクルクルクル回っている。
私は言葉を何一つとして発していなかった。
寧ろ発せなかったと言った方がいい。
只、余りにも鮮明に一樹の腕の傷の記憶が残っているのだ。
私は周りの事を一切気にも留めず、只机を見つめていた。
「松浦どうしたんだよ?」
武が私の顔を覗き込む。
私は武の言葉によって教室の騒がしさを確認できた。
「あ……え………何でもない。」
また急に鮮明にあの傷が目に浮かぶ。
「お前、顔色かなり悪いぞ。真っ白じゃん。保健室行こう。」
武は私の腕を掴んだ。私は茫然と立ち上がり武に腕を引かれながら教室から出た。
「歩香ちゃん。」
私の視界に一樹の顔が浮かぶ。
私は急に凍り付いた。
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