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あれは小学五年頃、月は六月だった。
その時期には全く相応しくない転校生がクラスにやってきた。
転校生のイメージといえば桜の季節や長い休みの後に来るのが一般的であろう。
だがしかし、その転校生は何の前振りもなく私の前に現われたのだ。
私は当時飼育委員をしていた。学校で飼っている五匹のウサギと三羽の鶏、五羽のインコの面倒を視ていた。
毎日同じ様な日々が続くのは小学五年という幼さでも苦痛であった。
当時私が求めていたのは「人とは違う日常」であった。
今と比べたら逆に夢を見ていたのかも知れない。
どんな日常でも構わなかった。この平凡な生活から一歩でも抜け出したいと思っていた。
そんな私には時季外れの転校生の話題はとても魅力的だった。
飼育小屋でウサギに人参をあげていると後ろから甲高い少女の声が聞こえた。
「お早よう歩香ちゃん。いつも大変だねぇ。」
振り替えると黒渕眼鏡に三つ編みの少女が笑っていた。
「あ、お早よう唯ちゃん。そうでもないよ。ウサギ触れるし。」
私は笑い返した。
私はなるべく友達にはこの密やかな不満を悟られないようにしていた。悟られたらいけないと思えた。
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