1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

私の家は夜になると賑やかだ。父は仲間と麻雀に興じる。大人の時間。母は忙しなく台所と部屋を何度も往復する。父は俗に言う「亭主関白」だった。酒の肴が途切れない様母は気遣う。 兄と姉と私は子供部屋でジャラジャラと牌を切る音をききながらテレビを見る。国道を走る車の音と麻雀のジャラジャラと父達の声でテレビなんて聞こえない。子供の頃の夜のテレビ番組は全然覚えて無い。 暫くして母が「お風呂行こうか」と私達に声をかける。当時の家にはお風呂が無く歩いて20分程かかる「銭湯」に通っていた。行きはよいよい帰りは怖い…私は必ず眠ってしまい母の背中におぶられていた。 家に着くとそこに父の姿は無い。毎晩の事だ。 外に飲みに行ってしまう。母は私達を寝かせてから必ず外へ行く。 父が「呑み代持って来い」と電話を掛けて来るからだ。母は嫌な顔をせず父に従っていた。私は寝た振りをして母が外に行ってしまわぬ様母のカーディガンを掴んでいた事を鮮明に記憶している。 …テレビの事は覚えていないのに。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!