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私は鼻から息を大きく吸い込んだ。
何度も、何度も、繰り返し深呼吸をした。
これが病院の匂いだ。
何に例えればいいのだろう。
多種多様のものが混ざり合って、絶妙な融合を成している。
医療器具に染み付いている消毒剤の匂い。
所々に配置されている観葉植物の匂い。
太陽の光を受けたベッドシーツの匂い
それに人間の体臭がバランス良く配合されている。
私は実感した。やはり病院のこの空気が私は好きなんだ。理由はないけれど。
「で?質問ってのは?」
兄の病室は二階の205号室だ。
同じ階には兄の病室を挟んで左右にそれぞれ四室づつ部屋が並んでいて、さらに通路を挟んで南側へ左右対称に9室、計18部屋が配置されている。
部屋は全て四人部屋になっていて、通路側と窓側に二個づつベッドが並んでいる形だ。
兄のベッドは窓側にある。
私は窓越しに外の世界を見渡した。
すぐ真下と言うわけではないが、細い公道を隔てて、その北側には公園が広がっていた。
目の前は視界を遮る木々が目立つが、遠くまで見てみればそれが公園である事は容易に確認できる。
巨大なジャングルも空から見ればただの大きな公園だった。
昨日私はあの公園で神谷恵の涙を見た。
どうしてもその理由が知りたかった。
そして彼女を助けてあげたい。
「おい!純!聞いてるのか?」
「あ、ごめん。・・・ちょっと考え事してたんだ」
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