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「それに、幼馴染に馬鹿にされたくないお父様の気持ちも察せ」
何かを言おうと口を開いたが、反論の言葉が見当たらず、口を閉じた。体の奥から妙に悔しさが込み上げるのを感じて、唇をぎゅっと噛む。
頑なな態度を取り続ける慈親を見かねた正親は、表情を緩めて慈親と視線の高さを合わせた。自分と似た中性的な顔に、慈親は少し苛立ちを覚える。
少し間を置いて、正親は優しい声音で言葉を紡ぎ始めた。
「洋服を着たくないなら、無理に着なくていいさ。ただし、今回だけだぞ。用意をしたらすぐに来い、」
言うと、ぎしぎしと床を軋ませながら来た道を戻って行った。
――相変わらず、出来た奴だ。
心中溢すと、慈親は自室に足を向けた。少し振り向き正親の背を見れば、慈親の予想通りそこには堂々とした背中があった。
「……お前は出来すぎなんだ」
そう呟いて、兄から譲り受けた少し大きい洋服を見に着けた。
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