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赤目と初めて遭遇してから一月。その間飛世は何度か山へと出向いたが、赤目と出会う事は一度たりともなかった。そんな事、今は考えていないが。
飛世は、書室で様々な資料に目を通していた。湿った空気が頬をくすぐる。
――今日は、やけに苛々する。
あごの下触るとリンパ節が腫れていた。
――風邪でも引いたか?
「慈親、慈親はいるか?」
兄、正親の声が聞こえ、飛世は書室から顔を出した。見れば、兄が余所行きの洋服を着て、足音大きく歩いて来ている。目が合うと、更に足音を大きくして歩いて来た。
「慈親、後少しで正午だ。お前も洋服に着替えろ」
正親の言葉に、慈親は口を固く結ぶ。
そんな慈親の様子を見て、正親が眉を寄せて呆れた様に溜め息を吐いた。
「お前が洋服を好かんのも仕方ないが、この時勢に薬屋が世間から遅れていては駄目だろう。学者が新しい菌を幾つも見つけているんだ、流行に遅れていては信用を失う」
「薬の効果だけを確認させておけばいいだろうに……」
「それを証明する方法の一つだ。いざとなった時に信用できない薬屋でどうする」
「…………」
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