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「何か、強い願いがあるのね」
鈴子様のその言葉は確信だった。
『鈴屋』の扉は、強い願いを持った人の前にしか現れず、そして開けることは出来ない。
やはりその通りのようで、鈴子様の言葉を聞いた途端、少女はみるみるうちに表情を曇らせて俯いてしまった。
「では、ここに座って。
白鈴、この方に飲み物を。ああ……紅茶は平気かしら?」
やっとという感じで少女は頷くと、鈴子様が引いたカウンターの椅子に腰掛けた。
私は鈴子様の指示通りに紅茶を入れ、少女の前に差し出した。
ティーカップに注がれた紅茶の香りが店内に広がり始める。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……」
恐る恐るティーカップに口をつけた少女は、ゆっくりと一口紅茶を飲んだ。
すると、驚いたように目を丸くしてからほんの少しだけ口元をほころばせた。
少女が落ち着きを取り戻したのを見計らって、鈴子様は改めて口を開いた。
「ここは鈴屋。心からの願いを持つ人を受け入れる鈴の店。
初めまして、私は鈴屋の店主で響 鈴子と申します」
そう言って、鈴子様は頭を軽く下げた。
「そして、この子は助手の白鈴です」
紹介されて、私もトレイを持ったままおじきをする。
店内での私と鈴子様の間柄は、店主と助手ということになっている。
「さて、先程も言った通り……何か願いがあるんでしょう?」
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