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「あの鈴には、癒しの力があるの」
少女が店を訪れてから数日後の朝、鈴子様はそう言った。
「鈴に秘められた力は万能ではないわ。ただ、鈴の音を聞いた人の手助けをしているだけ。
一歩を踏み出すための、ね」
私は朝食の準備をしながら、鈴子様の言葉に耳を傾けていた。
「母親の病気を治すこともそうなんだけど、何より癒しが必要だったのは……あの子の心だった。
それに気付かないで、あの子は無意識のうちに自らを追い詰めてしまったの。
まずは自分を大切にしてあげること、そうしなければ他の人を“癒す”ことなんて出来ないでしょう?」
その通りだ。
私は鈴子様に同意して頷き、出来上がった料理をテーブルに並べていく。
「そのことに気付いたのなら大丈夫。青い鈴は、きっと力を貸してくれるから」
すると、どこからともなく希望の音色が遠くで鳴り響いたのが分かった。
リン。
「ねっ?」
鈴子様の穏やかな笑みにつられて、私も思わず笑った。
「お腹空いちゃった。食べようか、白鈴」
「はい、鈴子様」
いい匂いが立ち込める中で、私達は丁寧に手を合わせてから箸を取った。
†第一節・終†
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