†零節†

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 棚のようなショーケースにひとつひとつ飾られた数千もの鈴。  そこの前はカウンターが設置されていて、どこか喫茶店に似た雰囲気を持つ店内を、上から吊された灯りが優しく燈していた。  妖しくてどこか懐かしい感じを覚えるその空間は、いずこかの次元に迷い込んでしまった錯覚さえする。  この店は、先祖代々受け継がれてきた『砦』。  そして、今日。  私、響鈴子はこの店の主となり、鈴の力を引き出す奏者となる。  そのためには。  リン。  私が生まれた時に、渡されたこの鈴。主となる者として自らの命よりも大事な鈴を取り出して、掌の上にそっと乗せた。  白く強く輝いて、脈打つ生命の音が掌から伝わってくる。  主となる条件は、鈴に宿る生命をこの世に生み出し従者とさせ、一生のパートナーとさせること。  その時が来た。  シャン。シャン。シャラン。  私の想いに呼応するかのように、白い鈴が鳴り響く。  どうやら、この鈴は元気な子らしい。  鈴に微笑んでから、私はスッと呼吸を整えた。 「さあ、生まれておいで……」  そっと呼び掛けると、白い鈴は眠っていた生命の光を解き放ち、掌を離れふわりと宙に浮かんだ。  光は音を奏で、人へと姿を変える。
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