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絹のリボンを解くかのように、足元からその姿を現した。
ショートブーツにフードの付いたワンピース、ふっくらとした幼子の輪郭にはアメジストのような丸い瞳。桜色に濡れた品の良い唇、温かな伽羅色の髪はショートに切り揃えられていた。頭の上には、先ほどの白い鈴。
私の鈴は少女だった。
しばらくぼんやりと目線をさまよわせていた少女は、私を視界に捉えると口を開いた。
「主様。私の名は何でしょうか?」
鈴が生まれたその後、名を与え主と契約を交わす。
「あなたの名前は……」
生まれたばかりのその子を見た時に、ひとつの言葉が私の心には浮かんでいた。
一息つくと、私は少女の肩に手を置いて呪文を唱えるかのように言った。
「あなたの名前は白鈴。私は響鈴子、よろしくね白鈴」
私の放った言葉に、少女はじっと考えるそぶりを見せた。しかし、そう経たないうちにアメジストの瞳には光が宿っていた。
「はい!」
実はこの自己紹介こそが契約そのものでもあり、鈴の了解を得られれば無事契約完了ということになる。
無意識のうちに、私は肺が空になるほど息を吐き出した。どうやら緊張していたみたいで、身体中の筋肉がほぐれていくのを感じた。
「鈴子様?」
ハッとして意識を戻すと、白鈴が不思議そうな面持ちで私を見上げていた。
「ううん、何でもないの」
首を横に振ってから、私は白鈴の肩に手を置いたまま店内をぐるりと見回した。
「今日から頑張らなくちゃね」
先代達がずっとそうしてきたように、鈴の導き手になれるように。
そして、頷いた。
そして、今日。
『鈴屋』は開店する……。
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