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「ふふふ、隊長さんはぼうやが嫌かな?」
嫌がっているのを見て面白がる様は、年端の行かない程に思えるが、実際はもう若くなどない。
しかし、我が母ながら美しい人だと思う。
「そんな事より、大事な話がございます。」
俺がそう言って話を切り出すと、母は俺をからかうのを止めた。
「…私は、明日から前戦へ出ます。」
俺がそう告げると、母は息を深く吸って、立ち上がった。
「ならば、お前に必要な物がある。」
と言って、部屋の奥に置いてある金と宝石で装飾の施された箱の前へ行った。
箱と言っても、大きく、大の大人も一人はすっぽり入るくらいあるものだ。
母は箱の蓋に触れて、呪文を唱えながらその指を払った。
すると、蓋は軽々しく指の動きに倣って滑り、中身を晒した。
俺が座って居るところからもその中が見えたが、中には剣が在るだけで他には何も無い様だった。
母がその剣を取出し、再び向かいのソファに着いた。
「さて、三世や。
戦いに身を尽くすならば、覚えて置きなさい。
殺していると言う事を。」
母はそう言った。
「…心得ております。」
「よろしい。
では、父と母の想いを受け取りなさい。」
剣が俺に差し出された。
目の前で見ると、鍔も柄も、鞘も全てが純粋に美しく、そしてまた鞘の表面に浮かび上がる模様に力を感じた。
受け取り、触れる瞬間にこの剣が持つ魔力の脈が伝わって来て、自分の心臓に呼応するのがまさに手に取る様に分かった。
「どうか?魔剣を持つのは初めてだったかな?」
魔剣の凄味に感心している俺に母が聞いた。
「その魔剣は「テュポエウス」と名を持つ。
その剣がお前を導き、またお前がその剣を導くのよ。
まさしく天上の傑作ぞ。
職人も名残惜しがったからの。」
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