第8章 虚ろなる覚醒

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「他にも主がいる場所を見せろ」 ぐいと手に力を込めると、魔物が苦しげに唸り、立っていられないのか体の力を抜いて伏せ、グリスの影は色濃く魔物の体全体を覆った。 一応、あちこちから統率者であるこの魔物を奪取せんと攻撃が飛んで来てはいるが、セシルがこれを退けている。 グリスの脳内に流れるイメージはどれも朧気で、より鮮明に見えたのはクラウスと談笑するものだけだった。しかも、全て室内だったので大鴉の主がいる具体的な街までは分からない。 搾り取れる情報を全て引き出そうと言葉を重ねかけた時、渦を巻いていた黒雲が、一気にその身を五倍ほどに膨らませた。 大きな獣の顔が、鬼にも見える醜悪な顔が、渦の中心から覗く。魔物からは不敵に笑む感情が伝わってきた。 「ちっ」 詮索を諦め、繋がった橋を絶つとそのまま頭部を握りつぶす。グリスの影は、足元に沈むと本来の姿へと戻った。 ――アレが見えたからには、このままでは戦況は転がり落ちて悪くなるだろう。 気づいた者から手を止めて呆然と見上げて、戦意を喪失する者も少なくない。蹂躙はまだ続いている。 「セシル!」 上空の顔を睨みつけ、グリスは叫ぶ。 セシルは急いで周囲の三体を片付け、次を待った。 「俺の安全を確保しろ!」 「はぁ!?」 「アレを潰す!」 バッと見上げて把握すると、新手を相手にしつつもキチンと魔力を練って左手をグリスに向けた。 「ああもう……!彼の者へ纏え、“ハロンドの黒衣”」 僅かな熱を纏ったのを感じ、グリスはブーツに羽を四対生やして倍速で飛び出した。 鈍い頭痛を感じたが、そんな些細な痛みは気にしていられなかった。 大量の魔力を練り、集め、己そのもの――消滅の異能を引き出す。 「消滅の力よ……“イレイズシフト”」 まず障害となる上空の飛行型を纏めて滅し、夥しい魔力を人を切り裂く刃に変換しようとしている顔目掛けて飛び込んだ。目前にして両腕で円を描き、ピタリと静止する。 「消え失せろ。“イレイズヘキサグラム”」 顕れた魔法陣から、消滅の光がレーザーの如く放たれ、力に触れた顔は蒸発するように、黒雲と共に姿を消した。
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