煙草の香り

3/8
前へ
/142ページ
次へ
後ろから、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。 振り返ると、彼がいた。 「まるで、壊れたロボットだ。」 彼はまたクスクスと笑っていた。 「それ、前にも言われました。 つか、俺は少年じゃないです。いちおう、高3ですから。」 子供扱いされたのに、少しムッとした。それでも、彼はクスクスと綺麗な顔で笑っている。 「俺からしたら、まだ子供だよ。第一、成人してないじゃないか。 だから、煙草は没収ね」 そう言って、彼は俺が加えていたものを奪い加えた。彼が煙草をくわえている姿は綺麗で、どこか儚さを感じさせた。 そして、なぜか、胸がギュッと締め付けられるような感じがした。 「どうした?人のこと見つめて… 惚れちゃった?」 おどけたように言う彼に、少しだけ、ほんの少しだけ、胸がときめいた。 「惚れてません。 アンタもオレも男でしょ。」 「そりゃあ、残念だ。 少年、名前は?」 「…りょうです。涼しいって漢字の。」 「涼ね…。いい名前だな。」 彼は、少し遠くを見て紫煙をはいた。 その横顔は夕日に照らされていて、まるで美術品のように美しかった。 そんな、美しく儚い彼の名前が知りたくなった。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加