煙草の香り

5/8
前へ
/142ページ
次へ
「なにか、考えてたっぽいけど、悩みごとでもある?」 「イヤイヤ、なんでもないですっ! ただ、俺で2人目ってことは他に誰が言ったんだろなーって…」 我ながら、苦しい言い訳だと思った。とにかく、話題が変われば良かったのだ。 俺が奏太に恋をしているかもしれないとは、知られるわけにはいかない。 俺はノーマルで、向こうもたぶんノーマルなのだから。 「ああ、それね。」 奏太は特に不信に思わなかったのか、俺の苦しい言い訳にのってくれた。 「いつだったけなー。ま、いいや。 昔ね、俺の先輩が 『お前の名前いいな。お前らしくて』 って言ってくれたんだ。」 奏太は懐かしそうに、愛おしそうに話してくれた。なぜか、俺はそんな奏太のことを見ていると、胸が締めつけられて苦しくなった。 「涼クン、どうした?」 「え?何がですか?」 「だって、涼クン…泣いてるよ。」 奏太に指摘されるまで気づかなかった。 涙は目に溜まって潤むぐらいじゃすまなくて、目から零れてほっぺたをつたって落ちていった。 「涼クン、俺、なにか君に悪いことでも言っちゃったかな?」 奏太は、ベンチに座っている俺の目線に合わせしゃがんでくれた。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加