境界を引く美女 月の巻

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それは丁度、月が東側から昇りはじめた頃であった。 何処であるかは分からない。 しかし月の光は確かに届く場所であった。 小綺麗な土壁造りの建物が幾つかあり、その中でも一つ少々大きめな家の縁側に一組の男女がいた。女性は月の光のように輝く金色の髪に、ちとばかし奇妙な帽子を被せており、その容姿は万人が美女と呼ぶに相応しいものだ。 肌の色は雪並に白く、それを隠す服は洋柄とも和風とも言える。 八雲 紫―――妖怪である。 人の身に見えるそれに反して、恐ろしい程の妖怪としての力を持つ。 何百、何千という年を生き、かの天才陰陽師「安倍晴明」を見たとは言うが、事実か否かは謎である。 又、神隠しの主犯とも言われ、迷いこませた人間をこの迷ひ家へと案内したり、幻想郷へと迷い込ませたりもする。 当人の事に関しては、多くが真実か偽物かが解らず彼女を知る者達は「胡散臭い奴」という共通した認識をしている。 そんな彼女であるが、男と共に月見をしている事は中々珍しい。 常に彼女の側にいるはずの式神である八雲 藍もおらず、二人っきりだった。
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